それでも君が必要だ
蛍光灯の光が無機質に明るい駅の中へ、息を切らせて駆け込んだ。
そのまま急いでロッカーに向かい、あの短いスカートを取り出す。
ロッカーの中から取り出したスカートは、冷たく湿ってしんなりと重たくなっているように感じた。
こんなスカート穿きたくない。
でも、穿かないといけない。
穿かないと父の機嫌が悪くなるもの。
……。
私、父の顔色を窺ういつもの私にもう戻ってしまっている。
そんな自分が虚しい。
すぐに元に戻ってしまう軽薄な自分は、さっきまでの智史さんとの幸せな時間を大切に守れていないような気がして悲しくなった。
とぼとぼとトイレに入り、冷たいスカートに穿き替える。
空気に触れる面積が増えて、足が寒くてたまらない。
帰りたくはないけれど。
こんな格好、いつまでもしていられないから早く帰ろう。
寒々しい足元に慣れなくて、なんとなく人目が気になって、ぎこちなく早足で駅を出た。
誰も見ていないとは思うけれど、こんな短いスカート恥ずかしくて耐えられない。
早く帰らなきゃ。
暗闇の小路を走り出そうとした時。
「ひゃ!」
突然後ろからグッと腕を強く掴まれた。
心臓が飛び出すほど驚いて思わず勢いよく息を吸う。
怖い……!怖くて振り返れない。
「どういうこと?」
えっ?その声……。
びくびく振り返ると、腕を掴んでいたのは智史さんだった。
無表情な黒い瞳。
怒っている?
とても不機嫌な顔。
どういうこと?って、それはスカートを穿き替えたこと、ですよね?
なんて答えたらいいの?
父に命令されたから、なんて言えない。
「ちょっとこっち来て」
グイッと手を引かれ、ズンズンと早足で歩く智史さんに引きずられるように車の前に連れてこられた。
扉を開け、助手席に乗るように促す智史さん。
促されるままストンと座ると、助手席のシートにはまだぬるく温度が残っていて、戻りたかったこの席に戻っている自分に気が付いて、わずかな温かさに涙がにじんだ。