それでも君が必要だ

どうして車に連れてきたの?
どうして私をここに戻しちゃったの?

こんなことされたら心が揺れる。
家に帰りたくなくなる。

智史さんも運転席に回って車に乗り込んで来た。
バタンと扉が閉まり、しばし沈黙する。

「そのスカートは」

あ、やっぱりスカートの話ですよね?

「すごくかわいいけど、俺だけが見る姿にしたいね。夜道を歩くのは心配」

「すみません」

「謝らなくてもいいんだ。でも、どうして穿き替えたの?」

「……」

何と答えたらいいのかわからず、沈黙してしまう。

「お父さんに穿くように言われたの?」

もう、嘘はつけないのかな。

「……はい」

「お父さんの前ではそういう格好をさせられるの?」

「え?あ、いえ。そういうわけでは」

「……触られたり、してない?」

「?」

なんだろう?
智史さん、ちょっと違う心配をしている?

「そんなことはされません」

「そっか」

エンジンのかかっていない静かな車のハンドルに手を乗せて、智史さんはじっと前を見つめた。

智史さん、私が父に見せるためにこのスカートを穿いたと思ったんだ。
父に命じられたのは確かだけれど、本当は智史さんに見せる意図だった、なんて言えない。

「あの人は……」

「え?」

「あの人は、本当に君のお父さんなのかな」

「あ、えっと、はい。それはそうです」

「とてもそうは思えない」

そうですか?
あんなに似ているのに?

一瞬杉山さんとかいう人のことが頭に浮かんだけれど。
あれは違う。
あれは母の戯言だもの。

「もしかしたら、父はそう思って思っていないのかもしれませんが、私は父の娘だと思います」

「どうしてお父さんはそう思っていないの?」

「えっと……母が、亡くなる時にそう言ったからです」

「亡くなる時?……なかなか強烈だね。誰とは言わなかったの?」

「え?あの……父の会社の杉山さんという方の子どもだって……」

こんなことまで話してしまっていいのかな。
口に出して言葉にするのは、初めて……。
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