それでも君が必要だ

智史さんは前を見たまま、目を大きく開いた。

「お母さんがそう言ったんなら、間違いないんじゃないの?」

「でも、私と父は似ているから……」

「似てないよ!全然似てない!」

突然バッとこちらを見て大きな声を出したから、驚いて小さくなる。

「そう、でしょうか?」

「そうだよ!おかしいと思ってたんだ」

「はあ……」

「あんなの、自分の娘にできる仕打ちじゃないと思ったんだ」

「?」

智史さんは父のどの仕打ちのことを言っているのかな?
食べちゃダメって言ったこと、とか?
そんなのたいしたことじゃないと思うけれど。

「でも、私が本当の娘かどうかは、関係ないと思いますよ?」

「どうして?」

「母があんなことを言う前と後で、父がすごく変わったというわけでもありませんから」

「……」

智史さん、黙ってしまった。
私、余計なことを言ってしまったかな。

「あのさ、どうしてスカート穿き替えたの?」

あれっ?
どうしたの?
また、その話?

「えっと……それは」

智史さんはこちらをちらりと見てニヤッと笑った。

「もしかして、俺を誘惑して落として来いとか言われた?」

「……」

どうしよう。核心に近づいてきちゃった。
でも、本当のことなんて言えない。

智史さんを誘惑するなんて、落とすなんて。
私みたいな地味でどうしようもない人間が、そんなとてつもないことを命じられていたっていうだけで恥ずかしい。

私が困ってうつむいていると智史さんはフッと笑った。

「そんな小細工、いらないのにね。俺はとっくに君の虜なのにさ」

「……」

智史さんって、嘘つき。

そう。智史さんは会社のために嘘をついている。

それはそれで、苦しくなる。
耐えがたい。
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