それでも君が必要だ
「ううん、大丈夫。わざわざ脱ぐのも恥ずかしいから、自分で洗います」
「……本当にすみません」
確かにびっくりしたけれど、そんなに気にされるとこちらも恐縮してしまう。
「そんなに気にしないでください。むしろ助けてもらった感じなんですから」
だって、役に立たないとか不細工とか目の前で言われて、落ち込んで辛くてあの場から逃げ出したかった。
あれ以上、目の前で蔑まれたくなかった。
私だって傷つくんだから……。
スカートの裾を洗面台の中に入れて水で流したら、予想通り梅酒は綺麗に落ちた様子。
「こちらのタオルをお使いくださいっ!」
サッと差し出されたタオルでパンパンとスカートの布を挟むように叩く。
ちょっと濡れているけれど、だいぶ水気は取れたかな?
「これで大丈夫!」
「えー?まだ湿ってますよね?私、ドライヤー持ってきますっ!」
「そこまでしなくても、もう平気ですから」
「……ホントですか?」
目を細めてじっと見る仲居さん。確かにまだ湿っているけれど、このくらいたいしたことないもの。
「失礼いたします、よろしいでしょうか?」
コンコンと扉を叩く音と共に凛とした声が聞こえたから、「はい」と答えるとガラリと扉を開き女将さんが入ってきた。
「お客様、この度はこちらの不手際で誠に申し訳ございませんでした」
女将さんが座って深々と頭を下げたから、若い仲居さんもその隣に座って頭を下げた。
困ったな。
大げさなことになっている……。
「こちらはクリーニング代の足しになさってください」
女将さんが滑らかな所作で和紙の封筒をスッと差し出した。
「えっ!?いえ!そんな、いいです!本当にたいしたことないんです!」
もう気にしないでほしくて、むしろ放っておいてほしくて両手をバタバタと振る。
「それではこちらの気持ちがおさまりません。どうかお受け取りください」
「本当に大丈夫ですから!私、戻りますっ」
逃げるようにひきつった笑顔でそう言いながらパウダールームの扉を開けると誰かの影が見えたから、邪魔にならないよう端に寄って笑顔で見上げた。
でも。
そこに立っていたのは父だった。