それでも君が必要だ
咄嗟に痛みを堪えて声を絞り出した。
「……お願いだから、やめてください」
「なにぃっ!」
父の狂気をむき出しにした目を見て、また蹴られるのがわかったから身を縮めた。
「口答えするな!この役立たずがっ!」
「きゃあっ」
今度飛んできた蹴りは、なんとか腕で受け止めた。衝撃を受け止めた腕はすごく痛いけれど、わき腹を蹴られるよりはマシ。
防御されると面白くなくて、父は何度も蹴ってくる。それでもわき腹を蹴られるよりは腕を蹴られる方が全然マシ。
廊下にうずくまる私を睨みつけて父が言った。
「あの男はお前が気に入らんようだ」
「すみま……せん」
私が不細工だから、私が魅力的じゃないから、だから気に入られないんですよね?
「……栗原様」
女将さんの声。
見かねて声をかけてきたの?
そんなことをしたら、この人も巻き込まれてしまう。
いつまでもうずくまっていたらいけない。
起き上ろうと床に手をついたら、わき腹と肩が痛んで顔をしかめた。頭上から低い声が響いてくる。
「何としてでも婚約をとりつけろ!」
「……はい」
さっきの若い仲居さんが床に座り込んですすり泣いている。
そうだよね?
こんなの、目の前で見たら驚いちゃうよね?
でも大丈夫。
こんなのは一時のこと。
過ぎてしまえば平気だから。
考えなければ平気だから。
「早く戻れ!」
「はい」
ドスドスと不機嫌にわざと大きな足音を立てて父は戻って行った。
「お客様……お怪我は?」
父が去るのと同時に女将さんが駆け寄り、そっと私の肩に手をかけた。その華奢な手は震えていた。
こんな凛として冷静沈着に見える女将さんでもあの状況は怖かったんだろう。