それでも君が必要だ

一瞬誰に名前を呼ばれたのかわからなくて、目の前の三人をキョロキョロと見渡すと、副社長さんと目が合った。

副社長さんが首を傾げる。

少し微笑んでいるような?
……いや、それとも真面目な表情?
副社長さんが呼んだの?

黒い瞳がまっすぐ私を見つめている。
そんなに見つめられると、吸い込まれて身動きがとれなくなってしまう。

私からもこの婚約をやめるように父を説得してほしい、とか言うつもり?
そんな恐ろしいこと、私にはできない……。

副社長さんは小さく息を吸って口を開いた。

緊張で鼓動が激しく胸を打つ。
お願いだから、変なこと、言わないで。

「もしよろしければ、今度お食事をご一緒していただけませんか?」

「…………えっ?」


……なに?
どういうこと?

ぐるりと目が回ったような気がして何度も瞬きをした。

あれっ?
……えっと?

私、今、誘われた、のかな?

副社長さん?
さっき、この縁談を断りに来たって言ってませんでしたか?

いったいどうしたの?

私が席を外している間に何かあった?
もしかしたら会社の状況を理解して、父の交渉に乗ることにした?

「いいじゃないか、行ってこい」

父がニタリと笑ったから、反射的に「はい」とうなずいて、少し冷静な心が戻ってきた。

間違いない。
副社長さんは自分の会社が傾いていることをやっと理解したんだ。
私を誘って父のご機嫌をとっておけば会社は安泰ってこと、だよね?

この人は前の婚約者たちのようにヘラヘラはしていない。
痛いほどのまっすぐさを感じる。

だから、会社のために無理をして私を誘ったんだ。
そういうことだよね?

柴田専務が私に向かってニッと笑った。

「先ほど副社長が考えを改めましてねえ、縁談を進めていただきたいと栗原部長にお願いしたところなんですよ」

「……はあ」

そうですか。
つまり、副社長さんは仕方なくこの話に乗る覚悟をしたのですね?
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