それでも君が必要だ

柴田専務は目を細めて笑った。

「お嬢様があまりに可愛らしいから、副社長は心を入れ替えたんですよ!緊張しちゃってこんな仏頂面してますがねぇ」

柴田専務の笑い声は中身の入っていない紙袋のように軽くカサカサと聞こえた。
そんな口先だけの言葉、信じられるわけがない。そんなわかりやすい嘘、むしろ傷つくからやめてほしい。

副社長さんは柴田専務の言葉を無視して、父の正面に向き直り、少し頭を下げた。

「せっかくこのようなお話をいただいたにもかかわらず、先ほどは大変失礼をいたしました。本当に申し訳ありませんでした」

副社長さんは畳に手をついて、深々と頭を下げた。
そんな姿を目の当たりにすると思わず息を潜めてしまう。

大人の男の人がこんなことをするなんて、かなり屈辱的なはず……。
冷静な顔をしているけれど、心の中はどれほど煮えたぎっているんだろう。

「栗原部長!ほらっ、副社長も反省していますし、ねえ?先ほどの件は水に流して、この縁談をこのまま進めていただけませんかねえ」

「まあ、顔を上げなさい。そこまで言うならこちらはかまわんよ。わかってくれればそれでいいんだ」

父はご満悦な表情で見下ろした。

あんなに拒んでいた副社長さんが深々と頭を下げるくらい、シジマ工業は危機的な状況にあるということ?
父はそれを助けられるの?
本当にそうなの?

今回の婚約は今までの婚約とはかなり違う。

今までの婚約者は父より偉そうにしていて、父は威圧的というより貼り付いた営業スマイルを見せて若い社長さんを持ち上げていた。

でも今回は違う。
明らかに父の方が有利な立場にある。
それなのにどうして婚約する必要があるの?

父の誠意を見せるため?
……どうしても違和感がある。
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