それでも君が必要だ
酔った父は、ムシャムシャと食べながら大声で話を続けた。
「誰とでも寝る母親から産まれたんだ。お前ならシジマの息子を手玉に取るくらい、わけないだろう」
「……」
そんなこと、言わないでほしい。
父は亡くなった母をいつも悪く言う。
今さらそんなこと、言わないでほしいのに。
母は痩せていて口数が少なくもの静かで、影の薄い人だった。
母と仲良く過ごした記憶はない。
いつも距離を感じた。
私も母も父の存在に怯えて毎日を過ごしていたけれど、私たちはその気持ちを共有することはなかった。
母はそれどころではなく、自分の身を守るので精一杯だったんだと思う。
母は父の怒りの矛先をわざと私に向けて自分は難を逃れることがしばしばあったけれど、私はあえて母の望み通り父のターゲットになった。
私はそれが自分の大切な役割だと思っていた。
お父さんからお母さんを守ったら、私のことを見てくれる?
私を必要としてくれる?
そう思っていたのかもしれない。
私は母に自分を見てほしくて、まとわりついて話しかけたり、お手伝いをしようとしたけれど、そんな私に母は手伝いをさせることもなく、いつも面倒臭そうに追い払った。
私に近付いてほしくないのかな?
私は邪魔なのかな?
だんだん私は母のこともじっと観察し、距離を測って近付きすぎないようになった。
なにより母は私よりも飼っていた犬をかわいがっていた。
その犬は近所からもらってきた茶色い雑種の小型犬で、ショコラという名前だった。
ショコラは母にしか懐かなかった。
いつも母のそばにいるショコラが私は嫌いだった。母に媚を売ってそばにいるショコラが羨ましくて妬ましかった。
母に当たり前のように甘えてそばにいるショコラを見たら、私はますます母に近づけなくなっていった。