それでも君が必要だ
固まってしまった私を見て、副社長さんは笑った。
「そんなに緊張しなくても。それともこういうのは苦手?でもね、これからはちゃんと名前で呼んでほしいんだ」
「……はい」
副社長さんは未だ戸惑う私に微笑みかけると優しく「じゃあ、行こう」と誘導するように歩き始めた。
街路樹の木々は、葉が半分ほど落ちてとても寂しげ。落ち葉の転がる道に乾いた靴音が響く。
少し前を歩く副社長さんを見上げた。
副社長さん、「名前で呼んで」なんて言って微笑んでくれるけれど、本当はどう思っているんだろう。
厄介なものを押し付けられたと思っている?
会社を守りつつ、どうやってこの縁談を断るか考えている?
それに本当はこんな不細工な女、連れて歩くのも恥ずかしいですよね?
申し訳なくて斜め後ろからついて歩くと、副社長さんは何度も私を振り返った。
「ちゃんとついて来てくれてるのか、気になるなあ」
「大丈夫です。ちゃんとはぐれないように歩いてますから」
「いや、そういうことじゃなくて、散歩だからさ、歩きながら話したいんだよ」
「……それなら、もう少し前に出たほうがいいですか?」
「……うん」
あ、ちょっと不満?
やっぱり横を歩かれるのは嫌ですよね?
ごめんなさい。
私、まだ副社長さんがどうしてほしいのかがわからない。
精一杯がんばるから、がんばって求められていることをするから。
だから、お願いだから嫌いにならないで。
おずおずと少しだけ前に出ると、副社長さんはさりげなく私の背中をそっと押してもう一歩前に私を出した。
その大きな手にドキッとして、背中がわずかに痺れる。
「こんな感じ」
「……はい」
こんなに横に並んじゃっていいのでしょうか?