それでも君が必要だ
副社長さんは横に並んだ私にうなずくと、にっこりと微笑んだ。優しい瞳に胸が痛む。
そんな微笑み、つい本気にしてしまう。
でもダメ。本気にしちゃダメ。
副社長さんは会社のためにやっているだけなんだから。
父に気を遣うのならわかるけれど、私に気を遣われても困る。優しくしてもらっても私には何の便宜も図れないもの。
副社長さんは落ち葉を踏みしめてゆっくりと歩きながら話し始めた。
「俺は君のことを知りたいし、俺のことも知ってもらいたいと思ってるんだ。勝手に決められた事とはいえ、君と俺は婚約したんだよ?近い将来、俺たちは結婚することになるんだからね」
そう言われて、ハッと顔を上げた。
それは確かにそうなんだけど……。
あまり現実の出来事として考えていなかった。
だって、この婚約もいずれは父が破談にしてしまうもの。副社長さんとも結婚することはないと思っていた。
「あんまり実感してなかったって顔だね。そんなに深く考えてなかった?」
「そ、そういうわけでは……」
副社長さんは知らないんだ。
この婚約が破棄されることを知らない。
本当に私と結婚しなければならないと思っている。だからお互いを知るために話をしよう、なんて……真面目な人。
勝手に決められた婚約なんて嫌なはずなのに。
父がいずれ婚約を破棄するってこと、教えてあげようか。それを知ればホッとするでしょう?
でも……。
言えない。
父に硬く口止めされているもの。副社長さんに本当のことを言ったことが知られたらどんな目に遭うかわからない。
いや……。
本当はそれだけじゃない。
副社長さんはいつも優しく接してくれる。私、こんなに優しくされたこと、今まで一度もない。
……この人に優しくされたい。
たとえこの優しさが偽りだとわかっていても。