それでも君が必要だ

勇気を出して息を吸った。

「……智史、さん」

小声で搾り出すように言うと、やっぱり顔が熱くなったからうつむいた。
……これは慣れるまで大変。

「よくできました。今度副社長って言ったら俺にも考えがあるからね」

「……すみません」

「あはは、もういいよ」

副社長さんは笑って歩き始めると少し遠くを見た。

「確かに、最初にこの縁談を聞いた時は嫌だと思ったよ。会社の経営と俺の結婚、全然関係ないだろって。だから断ろうと思った。でもね、君を一目見て思ったんた。こんなに可愛い子だなんて聞いてなかった。断りたくないって」

「……」

そんな言葉……。
スウッと頭が冷静になっていく。

歩幅を揃えて歩くために、副社長さんの足元をじっと見つめながら思った。

この人は、嘘つきだ。

私、可愛くなんてない。

やっぱり私を持ち上げて便宜を図ってほしいと思っているんですね?

でも、私は何もできない。
私がしてあげられることは何もない。
私は何の役にも立たない。

副社長さんが私の顔を覗き込んだ。

「そんな不純な理由じゃ、不愉快?」

「いえ……私、可愛くなんてありませんから……」

「何言ってんの?君はとっても可愛いよ。それともお父さんの発言を気にしてるのかな?」

父の発言?そういえば、副社長さんに初めて会った時も、父は不細工とか役立たずなんて発言ばかりしていた。

「あ、あれは本当のことです。そんなお世辞を言われると困ります」

「お世辞じゃないよ。……やっぱり君は、自分に自信がないのかな。そんな気はしてたけど」

……自信?
自分に自信なんて……当然ない。

不細工で何の役にも立たないのに、自信なんて持てるはずがない。

「君のこと、不思議だと思ってたんだ。今どき父親の言うことをあんなにおとなしく聞くなんて、変だからね」

「……」

変、ですか?

……そうですよね?
私……変、ですよね?
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