それでも君が必要だ
副社長さんは真剣な表情で私を覗き込んだ。
「わからないんだ。どうして君がお父さんの言うことを聞いてるのか」
「はあ……」
「本当はそのことが聞きたかったんだ。いくら父親だからって、君がおとなしく言いなりになってることが不思議だったんだよ」
「……」
私が変だっていうお話、ですね?
「なにか弱みでも握られているの?お母さんを人質に取られてるとか」
人質……?副社長さん、不思議なことを考えますね?
弱みを握られているのはむしろ副社長さんなのでは?
「そんなことはありません。それに母は三年前に亡くなりました」
「あ……そう、だったんだ。じゃあ、今はお父さんと二人暮らし?」
「はい」
「そっか……。変なこと聞いて、ごめんね」
「いえ、むしろ父がすみません。きっと皆さんを脅すようなことをしたんですよね……。本当にすみません」
「俺たちが脅されたと思った?」
「え?……はい」
違うのかな?
「それは君がいつも脅されてるから?」
私?……あれを脅されている、と言うのだろうか。
「えっと、いえ。だってあの時……会社のためとはいえ、あんなに頭を下げていらしたから。父が酷いことを言ったのかなと思って……」
副社長さんはフッと笑った。
「ああ、そういうこと?それなら違うよ。俺は会社のために頭なんて下げない」
「……?じゃあ、どうして……」
「俺はあの時、あの瞬間に決めたんだ。君を得るためなら何だってしようって。君のためなら頭を下げるくらいどうってことない。だから頭を下げたんだ」
「……」
副社長さんの真面目な声に、思わず息を止めてまばたきをした。
畳に手をついて真剣に頭を下げた副社長さんの姿が浮かんで胸の奥がチリッと痺れる。
大きくなる鼓動に耐えられず、急いで胸に手を当てた。