それでも君が必要だ
それに副社長さん、お父様である社長さんがどこにも登場しないけれど、それはどういうことなのでしょうか?
「あの……」
「んっ?なあに?」
「社長さんはどうお考えなのでしょうか?」
のほほんとしているとはいえ、あの方は社長さんなのでしょう?副社長さんがどう判断しようと、社長さんの判断が優先されるのでは?
「ああ、親父ねえ……」
副社長さんはため息をついた。
「親父は俺よりひどいマッドエンジニアだからさ。ずいぶん昔から社長なんてやってるけど、そんなの肩書きだけで経営はみんな柴田専務に任せっきりなんだ。だから今回の件も全然わかってないよ。事業譲渡の意味すらわかってないと思う」
私も事業譲渡の意味なんてわからないけれど。
社長さんなら、少しはわかっていないといけないのでは?
社長さんがそんな頼りない感じだから、副社長さんが判断したり婚約させられたりしているの?
「副社長さんは……」
私がそう言いかけた時、副社長さんが急に立ち止まった。
「あ、あの……?」
驚いて見上げた副社長さんの私を見下ろす黒い瞳があまりにも冷ややかで、一瞬で頭の芯が凍りついた。
怒ってる!?
どうして……。
あ!そうだ!
私うっかり副社長さんって言ってしまった!
そうですよね?
副社長さんって呼ばれるのは嫌って、次に言ったら考えがあるって言われていたのに……。
私は本当にバカだ。
ごめんなさい、ごめんなさい!
怒っていますよね?
嫌いになってしまいましたか?
緊張してドキドキして、息がうまく吸えない。
「す、すみません!」
私が勢いよくバッと頭を下げると、目の前にすうっと手が伸びてきた。
不思議に思って見ていると、長い指が私の顎にそっと触れ、下から持ち上げた。
「っ!」
叩かれる!?
触れられた瞬間、恐怖で反射的にギュッと目を閉じて固まる。
でも、長い指は柔らかく少し強引に私の顔を持ち上げて上に向けただけ。