それでも君が必要だ

強引なのに優しい指の感触は不思議と心地よくて、されるがまま上を向かされてしまった。

引き上げられた視線の先には無表情な黒い瞳。右左の瞳を交互に見ても全く動じない。感情が読み取れなくて不安が押し寄せる。

怒っているんですよね?
ごめんなさい……。
謝っても、もう遅い?

「言ったよね?副社長は嫌だって」

「……はい。…………ごめんな、さい……」

緊張して息が吸えない。

副社長さんは目をそらしてため息をつき、もう一度私を見た。

「俺は今、副社長として君と会ってるんじゃない。俺は俺として君に会ってるんだ。肩書きじゃなく、人として扱ってほしいな」

そう言われてハッとした。

そうですよね?
あなたは副社長さんである前に志嶋智史さん、なんですよね?

副社長さん、なんて肩書きで呼ばれたら人として扱われていないみたいでしたか?
そんなの、たまらなく嫌でしたよね?

ふと自分の日常を思い出す。

父は私を名前で呼ばない。        
血の繋がりを疑うようになってからはますます呼ばなくなった。

日々の私は名前もなく、自分を消して父に望まれることを実行するだけ。

そう……。
父は私を人として扱っていない。

人として扱われない。
それはとても悲しくて辛いこと。

それなのに智史さんにも同じ思いをさせたのだとしたら……。

「……智史さん……、ごめんなさい。智史さん……智史さん」

辛い思いをさせてしまった?
そんなの、イヤ!
取り消したくて、何度も名前を口に出した。

……本当に、本当にごめんなさい。

自分と同じ思いをさせてしまったと思ったら、急激に胸が詰まって苦しくなって、涙がわいてこぼれ落ちた。
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