それでも君が必要だ

智史さんは手を離すとハンカチを取り出し、私の頬にそっと当てた。

涙を拭いてくれているの?
驚きと申し訳なさで一歩後ろに下がった。

「そんな、大丈夫ですっ」

「いいから」

「でも、ハンカチが汚れるから」

「汚れないっ!それに俺がやりたくてこうしてるんだからいいの。……それとも、俺のことが怖いのかな?」

そんなわけがない。急いで首を振る。

「怖くなんて……ありません」

「でも君は今、やっと泣いてる姿を見せてくれたけど、なかなか自分を表に出さないよね?それは俺が怖いからじゃないの?」

私、自分を表に出してない?
智史さんが怖いから?

……確かに私は自分を出していないと思う。だって、智史さんは会社のために私と会っているんだもの。

それに……。

「智史さんのことが怖いわけではありません。自分を表に出すって、どういうことか……よくわからないだけです」

「わからない?」

智史さんは困った顔をした。
そんな当たり前のこともわからなくてごめんなさい。

「……すみません」

「いや、だから謝らなくていいんだけどさ」

ついまた「すみません」と言いそうになって言葉を飲み込む。

「ちょっと座ろうか。あのベンチ空いてるし」

目の前のベンチに誘導されて腰をかけると智史さんは私のすぐ横に座った。その距離にまたドキドキする。

智史さんは私を覗き込むように話しかけた。

「自分を表に出すことがわからないの?美和さんにだって、楽しいなーとか、嫌だなーとか、あるでしょ?」

「それは……まあ、あると思います」

「楽しいのはどんな時?」

楽しい?うーん……。

「……掃除をしている時、とかでしょうか?」

「は??なんかそれ、違くない?」

「……違いますか?じゃあ、何でしょう……」

困惑する私を見て、うーんと腕組みをする智史さん。

「想像以上に重傷かも」

「え?」

「いやいや、こっちの話」
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