それでも君が必要だ
私が困った顔をすると智史さんはクスッと笑った。
「簡単だよ。友達もいなくて自信もない、おとなしい君がお父さんが買収した会社にコネで入ったら格好のターゲットでしょう?」
「……はい」
「どうしてそんな会社、辞めないの?」
「……」
そんな、簡単に辞めるなんて言わないでほしい。
「父に紹介されて入った会社ですし、それに辞めても私、何もできないから……」
「何もできないわけがないでしょう?今経理をやってるんなら他の会社でもできるんじゃないの?そんな会社、辞めちゃえばいいのに」
「……」
そういうわけにはいかない。
働きたいと言ったのは私の唯一のわがままだった。
それを押し通してでも今あの会社で働いているのに、辞めてしまったらきっと家から出られなくなる。
そうして全てが父の言いなりになってしまうだろう。
だから、辞めたくない。
私は何も言わずに首を振った。
「あれ?案外強情なところもあるんだね?どうして?給料がいい、とか?」
「……お給料?」
「うん。給料」
正直言うと自分の給料がいくらなのか、よく知らない。私の給料は父の口座に振り込まれて、私は父から渡された生活費で毎日の食費をはじめとした生活費を払っている。
「……さあ?どう、なんでしょう?」
智史さんは訝しげな顔をして私をまじまじと見た。
「まさかとは思うけど、自分の給料知らないなんてことないよね?」
「……えっと、いえ、あの……」
「毎月給料日に入金されるでしょう?」
「……お給料は父の口座に入りますから」
「はあっ!?おかしいよ、そんなの!」
智史さんは身を乗り出した。その勢いにビクッとする。
おかしい、でしょうか?
「でも、父の紹介で入った会社ですから……」
「いやいやいやいや、おかしいって。じゃあ、俺が君に仕事を紹介したら俺に給料が入るの?おかしいでしょ?」
「はあ……」
そういう例え話になると確かに変な気はするけれど。
私が困惑して首を傾げると、智史さんは黙り込んで口元に手を当て、考え込んでしまった。