それでも君が必要だ
そして口元から手を放すと今度は腕組みをした。
「君は……なんだろう。お金なんて重要なファクターにも執着しないの?」
「……お、おかしいですよね?」
「おかしいと思う。だって、自分のことだよ?もっとちゃんと考えた方がいいんじゃないの?どうして考えないの?」
どうして考えない?
……それは、なんだろう。
「ムダだから……でしょうか」
「考えても無駄?」
「はい」
「だから、考えないの?」
「そう、ですね」
「ふーん。意味がない、か……」
また考え込む智史さん。
今度は何を言い出すんだろう。
智史さんは組んでいた腕をひざに置き、私を覗き込んだ。やっぱり何を考えているのかわからない瞳……。
「考えたところで逃れられないっていうこと、かな?それほど虐げられてるんだ?」
「?」
「お父さんが原因なんでしょう?」
「……」
なんだろう、この人。
どうしてこんなにぐいぐいと私に関わろうとするの?
「君にこんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、俺は君のお父さんが嫌いだよ」
「それは……そうですよね」
だって、父はあなたの会社に何かを仕掛けているし、したくもない婚約をさせたんだから、それはもちろん嫌いですよね?
「強引な戦略もそうだけど、何より君に対する横暴な態度はどうしても許せない。日頃、君がお父さんからどんな仕打ちを受けているのかはわからない。でも君は、自分が思っている以上に酷い目にあっていると思うよ。君は考えないことで現実から目をそらして、自分を守っているんじゃないのかな?」
なんだろう?
この人、私の領域にどんどん足を踏み入れてくる。
これ以上何も言わないでほしい。
近づかないでほしい。
心のどこかから怖がる声が聞こえる。
でも……どうしてだろう。ぶしつけに近づいてくることに期待する自分の心も感じる。