それでも君が必要だ

智史さんはため息をついた。

「もしそうだとしても、考えてほしい。考えなければ楽かもしれないけど、それじゃあ君は一生このままだよ?君は間違いなく普通じゃない、おかしな状況にあると思う。まずはそれに気が付いてほしい。俺にできることは何だってするよ?約束する。でも、自分で考えて自分で抜け出さないと意味がないんじゃないのかな?」

「……」

言っていることはわかるけれど……。容赦なく踏み込んでくる感じが不快なようで新鮮で、頭が混乱する。

「それに、君が自力で抜け出してくれないと本当の意味で俺は君を手に入れることはできないんだ」

「?」

独り言?意味がよくわからない。
首を傾げると智史さんはにこっと笑った。

「ううん、こっちの話」

さっきから自分一人で何でもわかっている感じで……ズルい。

そんなに簡単に「考えて」なんて言われても。

今まで考えないようにしてきたのは、本当は考えてもムダだからではなく、考えたら辛い思いをするから。

それが怖いからなのに。

この人は酷い人だ。
簡単にそんなことを言って。

わかったようなことをズケズケと言うけれど、智史さんは私の何を知っているというの?

傷つくのも辛い思いをするのも私なのに。

でも、智史さんがぐいぐいといろんなことを言ってくるから、もう既に考えて始めてしまっている自分がいることにも気がついている。
それを押し止めようと頭を麻痺させようとしている自分に、さっきから気がついている。

うつむく私に智史さんは微笑んだ。

「何でも一人で抱えて考えろとは言わないよ。一緒に考えよう?だから君の話を聞かせてほしい。俺は君の婚約者、なんだからね」

婚約者……。

確かにあなたは婚約者です。

あなたは父が決めた婚約者。
あなたは会社のために嫌々婚約を受け入れた婚約者。

それが私の婚約者であるあなたなのです。

それなのに、どうしてそんな風に私に寄り添うようなことを言うの?

あなたのことがわからない。
何を考えているの?
これも会社のための行動なの?
< 57 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop