それでも君が必要だ
突然吹いた強い風に、頭上の大きな木の枝がサワサワと音を立てた。
「そろそろ行こうか」
智史さんはそう言って立ち上がると微笑んで目の前に立ち、スッと手を差し出した。
「手を繋いでも?」
「……!」
驚いて目を見張る。
その一言に、今までのやり取りが全て吹き飛んで頭が真っ白になった。
私、男の人と手を繋いだことなんて、ない。
急激にドキドキと心臓が波打って、耳が熱くなる。見上げると智史さんは首を傾げた。
「そんなの、まだ早い?」
「い、いえ……」
差し出された手のひらにそっと指先を乗せたら心臓が痛くなった気がした。
そんな私の気も知らず、智史さんはにっこり笑うと私の手を躊躇なく握り、楽しそうに手を引き上げ私をベンチから立たせた。
そして器用に私の手を握り直して歩き始めると当たり前のように話し始めた。
「今日はせっかく上野に来たから、不忍池にある弁天堂にお参りしようと思ってたんだ」
「弁天堂、ですか?」
「うん、弁財天って財産の神様なんでしょ?今うちの会社、どうやらお金で困っているみたいだから、神頼みでもしてみようかと思って。付き合ってくれる?」
「はい……」
包み込むぶ厚い手の感触にクラクラして、酸欠ぎみな頭ではよく理解できないままなんとなくうなずく。
手を引かれて石段の上に立つと、風が吹き抜けて巨大な常緑樹がサワサワと音を立てた。
今気がついたけれど、この公園、大きな木がいっぱい。枯れ葉もいっぱい。猫もいっぱい。
何て言うか、のんびりした雰囲気。
緊張が少しずつ解けていく。
こんな穏やかな感覚、久しぶり。
花壇の中で顔を洗う猫をチラッと見たら気持ちが癒されて、足元に視線を戻した。