それでも君が必要だ
困惑してうつむくと、智史さんはクスッと笑った。
「君の考えていることはなんとなくわかるよ。合わせて歩くのはいけないの?って思ってるんじゃない?」
「……はい」
智史さんは何でもお見通しなんですね。
なんだかちょっと怖いです。
「合わせちゃいけないとは言わないけどさ、普通は人それぞれ歩くスピードとか歩幅とか足を出すタイミングとか違うでしょう?でも、君は完全に俺に合わせようとしてきてる。だから違和感があるんだよ」
「はあ」
「歩くのだって自由でいいんだよって話。俺に合わせなくても好きなように歩いていいんだ」
「でも私、歩くの遅いから……」
「そうしたら俺が少しゆっくり歩いて、君が少し早く歩けばいい。お互いに少しずつ妥協点を見つけていけば、だんだん二人の歩幅は揃っていくんじゃないのかな?そんなのはね、片方がもう片方に完全に合わせるようなことじゃないんだよ」
「……」
「きっと、俺たちには俺たちの歩幅があるんだと思う。それはこれからゆっくり時間をかけて見つけていこう?」
穏やかな言葉に喉が詰まったような気がして、わけもなく涙がにじんだ。
どうしてそんなに優しいこと言うの?
私は会社のために押し付けられた婚約者なのに智史さんは努力をして受け入れようとしているんだろうか?
でもこの婚約は、破棄されることが決まっている。
だから私を受け入れる努力をする必要なんてないんですよって教えてあげたら、智史さんはきっと楽になれるだろう。
……でも、教えたくない。
「行こう?」
「……はい」
ゆっくり歩き始めたけれど、歩幅を気にしないってことが気になって、むしろ足がもつれそうになる。
そんな私に気がついたのか、智史さんは繋いだ手を強くギュッと握った。