それでも君が必要だ
その感触に、またいちいちドキッとして智史さんを見上げる。
見上げる時、期待している自分に気がついた。
だって見上げたら、必ず智史さんは優しい瞳で私を見つめてくれる。
智史さんは会社のために無理をしているだけなのに。
無理をする智史さんに真実を言わず甘える私は悪い人間だ。
「合わせて歩くのが楽なら、最初はそれでもかまわないよ?でもそのうち合わせることなんて忘れられたらいいね」
「……はい」
すみません、と言いそうになってまた言葉を飲み込んだ。癖ってなかなか抜けない。
優しく手を引かれ、イチョウの葉が降り積もった石段をゆっくり降りて信号を渡ると驚いた。
大きな池!
一面が枯草で茶色い池。
これが不忍池?
「あはは、見事に枯れちゃってるなー。いい季節だとハスの花がすごく綺麗なはずなんだけどね」
「ハスの花?」
「うん。ピンク色の綺麗な花らしいよ?咲いてる頃、また一緒に見に来よう?」
「……」
智史さんが当たり前のように『また来よう』なんて未来を簡単に語ったから胸が痛んだ。
それはこの先も私と一緒にいたいと思ってくれているということ?なんて期待してしまう私はバカだ。
暖かい手で私の手を握ったまま、会社のためにそんな嘘をつくなんて、あなたはあなたでとても残酷な人です。
それに私は知っている。
私たちにそんな未来はない。
私たちが婚約しているのは今だけだもの。
……でも、ハスの花、見てみたかったな。
智史さんと一緒に。
智史さんの発言が全て本当だったら……。
智史さんの会社がうまくいって、婚約も破棄されなくて、ずっと一緒にいられたらいいのに。
悲しくなって目を閉じた。
どうして私、そんな風に思うんだろう。
私、智史さんと一緒にいたいと思い始めている。でも、この気持ちが強くなったら、取り返しがつかなくなる予感がして怖い。