それでも君が必要だ
そもそもお寺にお参りに来るなんて、初詣くらいしか今までなかった。それが全く関係のない日にお参りをするなんて、とても不思議な気持ち。
弁天堂に入ると目の前に巨大な赤い提灯が現れて圧倒される。
「お賽銭をはずめば効果があるんだろうか」
「効果?」
「いやいや。やっぱり、ご縁がありますように、の五円かな」
智史さんは大きな声で独り言のように言いながら、財布からお金を取出しコロンと賽銭箱に入れて手を合わせた。
私も急いで小銭入れから五円玉を取出し投げ入れて手を合わせる。
手を合わせたものの、何をお願いしていいのかわからない。
顔をあげると、智史さんはまだじっと目を閉じて手を合わせていた。
目を閉じた横顔も端正で密かにドキッとする。
……そんなにお祈りするほど困っているんですね?
それはそうですよね?
父のせいなんですよね?
本当にごめんなさい。
急いでもう一度手を合わせて目を閉じ「智史さんの会社を助けてください」と心の中で早口にお願いした。
「まさか、神頼みをすることになるなんてね。美和さん、付き合ってくれてありがとう」
智史さんは妙にさっぱりした表情で微笑むと賽銭箱の横を見た。
賽銭箱の横には小さな包みがたくさん置かれている。
「へえ!この袋を肌身離さず持ってるとお金に困らないらしいよ?もう、こうなったらとことん神頼みしちゃおうかな」
百円玉を箱に入れ、代わりにその包みを一つ手に取った智史さんになんとなく聞いた。
「普段は神頼み、しないんですか?」
智史さんは当たり前のような顔をして答えた。
「しないよ。運も大事だけど、結局は何事も努力と実力だからね。美和さんはよく神様に願い事をするの?」
「いえ……しません」
私も神頼みなんてしないけれど……、それにしてもこの人は私と全然違う。
何事も努力と実力、なんて。
何をしても逃れられない世界に私はいるというのに。