それでも君が必要だ

智史さんはシュンとしてしまった私に気が付いた様子で、でも理由は聞かずに優しく手を引いて歩き始めた。

「おみくじもあったけど、やりたかった?」

「いえ……」

「やっぱりおみくじは初詣のお楽しみだよね?おっ?……へえー?すごい!ねえ見て!『めがね之碑』だって!」

智史さんに言われて参道脇を見ると、丸い眼鏡の形が彫られた石碑があった。

なんだろう。
眼鏡を祀ってるの?
世の中にはこんな石碑もあるんだ……。
不思議。

「眼鏡を祀るなんて俺、共感しちゃうな」

「眼鏡をかけているからですか?」

「眼鏡がなかったら俺、生きていけないもん」

「……まあ、そうですよね」

確かに目が悪い人にとって眼鏡は必需品ですよね?だって、見えないんでしょう?

でも智史さんは、少し考えてから全然違うことを言い出した。

「いや、そこまでではない」

「はあ……、そうなんですか?」

そこまで目は悪くないのかな?

「眼鏡がなくても生きていける。でも……」

「?」

「君がいなかったら、俺は生きていけない」

一瞬何を言われたのかわからなくて、動きがピタッと止まってしまった。
頭が痺れたような気がして、自分が何を見ているのかわからなくなる。

智史さん……、何を、考えているの?
どうして今日初めてデートをするような相手にそんなことを言うの?

そんなの、ありえない。

あっ!でも……。
そういう意味じゃないんですよね?

会社が困っている今、私という婚約者がいることで必要な援助を父の会社から得られるんですもんね?

私、一瞬勘違いしてしまいました。
すぐ真に受けて本当にバカ。

「いきなりそんなこと言われても困るかな?」

「いえ……」

智史さんはため息をつくと、間をおいてから微笑んで私の手を引いた。

「そろそろ昼時だし、俺、腹減っちゃった。美和さん、お昼は洋食でもいい?」

「はい」

「良かった!おいしいって聞いたお店があってね、予約してあるんだ」

「……ありがとうございます」

智史さんって真面目なんですね?
ちゃんとお店を予約してくれるなんて。
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