それでも君が必要だ
智史さんが連れてきてくれたのは、大人な雰囲気の落ち着いたお店だった。

素敵なお店……。

本当に予約をしてあったらしく、他の席から少し離れた席に案内された。

椅子を引いてもらうなんて慣れなくてドキドキしてしまう。

「ランチのコースでいい?」

「はい」

「肉か魚が選べるよ?」

え?どちらでもいいけど……。

「智史さんは、どうされますか?」

「俺?んー、魚にしようかな」

「じゃあ、私もお魚で」

私の食べる物なんて何だっていいんです。好き嫌いもないし。何でも食べられますから。

それより何より、私は人と一緒に食事をすることに緊張しているのです。

はあっとため息をついて周りを見回す。

テーブルには分厚い生地のテーブルクロスがパリッとかけられ、食器と磨き抜かれたグラスが綺麗に並んでいる。

白い壁に掛けられた絵画も、柔らかい光のライトも本当に素敵。

落ち着きなくキョロキョロする私に、智史さんは微笑んだ。

「そういえば、美和さん。いつまでも敬語で話さないで、そろそろ普通に喋ってほしいな」

「……」

ああ、とうとう言われてしまった。ずっと何も言われなかったから、このままでいいのかなと思っていたのに。

「……でも、年上の方ですし」

私の返答に、智史さんはわざとらしく顔をそらし、ふてくされた顔をして見せた。

「ふーん。そっか……。そうだよね?俺みたいな年上のオジサンとはタメ口なんてきけないよね?」

「そ、そんな……。そういうことではありません」

智史さんのこと、オジサンだなんて考えたこともないのに。
驚いて急いでバタバタと手を振ると、智史さんはニヤリと笑った。

「でも俺は、君が敬語を使う度に『俺は君にオジサンだと思われてるんだ』って落ち込むことにするよ」

「えっ?」

智史さん?……何を、言っているの?
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