それでも君が必要だ
「智史さんが、自分のことをオジサンなんて言うから……」
「君がその調子で敬語を使わなければ、俺も自分をオジサンなんて言わないさ」
「……」
「俺がオジサンになるか否かは美和さん次第だよ?」
フフッと私を覗きこむ智史さん。
「怒ってる?」
さっきから楽しそうにそんなことを言って、私をわざと怒らせたいみたい。
ムッとして思わず不機嫌な声が出た。
「困ってる……」
でも、言葉が滑り出た途端、そんな感情が出てしまった自分に驚き、そして反射的に『怒られる』という恐怖に背筋がヒヤリと凍って表情が固まった。
「あははっ、いいねー。その調子だよ」
私の思いとは正反対に、智史さんは楽しそう。
よかった……。
怒られなかった。
はあっ、とため息をつく。
不機嫌な感情を出してしまったのに怒られないなんて。
智史さんは本当に怒らないのかも……。
「じゃあさ、機械が動いてるところを見せてあげる。そうしたらわかりやすいよね?」
後ろ向きに歩きながら、嬉しそうに話す智史さん。
智史さん、はしゃいでいる?
本当に楽しそう。
考えてみたら、自分の会社に来て楽しそうにしていること自体、私には信じられない。
会社なんて近づくだけで苦痛なのに。
智史さんって変わっているの?
それとも好きなことを仕事にしているの?
もしそうなら、それってとても素敵なこと、ですね?
智史さんは社長さんがいると思われるコンテナみたいな部屋の隣の扉を開けると「入って入って!」と、子どもみたいに手招きした。
社長さんにご挨拶しなくていいのかな?
後ろ髪を引かれつつ部屋に入ると、そこは狭くて薄暗い部屋だった。
ブラインドの隙間から外の眩しい光が細く差し込んでいる。