それでも君が必要だ

そんな私を見て、智史さんは困ったように微笑んだ。

「あらら、黙っちゃった?ただ普通に喋ってほしいだけなんだけどね」

「……」

どうしよう……。
何か言わなきゃ、と思えば思うほど何も言えなくなる。

父は機嫌が悪いと黙り込む私に「黙るな!喋れ!」と怒鳴る。その父の声が幻のように耳に響く。

「ごめんごめん!きっと美和さんは美和さんなりに頑張ってるんだよね?ご褒美にお団子でも食べる?」

思わずハッと見てしまった。
智史さん、何も言えなくなった私を怒らないんだ?

イライラすることもなく、こんな私にも優しくしてくれる。

智史さんは本当に優しい人。

私もこの人に何かを返したい。

この人の役に立ちたい。

でも……。
父はこの熱心な人から大好きな研究を奪ってしまうだろう。

前の婚約者は研究者ではなく経営者だったけれど、父は彼らから経営権を買い取って会社から立ち去らせていた。

今回もきっと同じ。
前の婚約者はお金に満足したのか何も文句は言わなかった。でも、智史さんの場合はお金じゃない。
この人はこの研究が楽しくてやっている。

父の会社は智史さんの会社を助けてくれるのかもしれないけれど、その代わり智史さんからこの会社の経営権を奪い取って智史さんも社長さんも会社から追い出してしまうだろう。

私は智史さんにご恩を返すどころか、奪うことに加担しているんだ……。

どうしよう。
そんなのイヤ。

でも、父には逆らえない。

「お茶、淹れるね」

うつむいてしまった私にそう言って智史さんが立ち上がった時、机に立てかけてあったタブレットが光って呼び出し音のような音を出した。

え?
電話?メール?

「おっ!ココちゃんだ!」

「!?」

ココちゃん?
外人?

そんな呼び方、とても親しげ……。

お友達かな?
それとも……恋人、とか?

なんだか胸がドキドキして気持ちが悪い。

私、ここにいたらいけないんじゃないのかな?
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