それでも君が必要だ

「嫌がってるわけじゃないよ!照れてるだけだよね?」

「えっ?あの……えっと……はい」

後ろから巻き付く腕がぎゅうぎゅうと絡み付いているというのに、こんなの照れているなんていうレベルではありません。もう、ドキドキして自分でも何が何だかわからない。

「ほらねっ!照れてるだけなんだってば」

フフッと笑う智史さんにため息をつくお母さん。

『智史、強引なのもほどほどにしないと、捨てられるよ!』

「嫌だなー。捨てるなんて、美和さんはそんなことしないよね?」

「……私には、そんなこと……」

優しい智史さんを捨てるなんて、私にはできない。むしろその優しさにしがみついているのに。

でも、父は容赦なくあなたを捨てるだろう。

それがわかっているのに、智史さんに優しくされたくて本当のことが言えない私は、父と同様の極悪人……。

一人沈む私を智史さんは一層強く抱き締めた。一瞬ビクッと驚くけれど、だんだんこの感覚にも慣れてきた。

「美和さんは母ちゃんとは違うの!」
 
『コラッ!「母ちゃん」って呼ぶんじゃないっ!「母ちゃん」なんて下町の肝っ玉母ちゃんみたいだから嫌なの!』

あ、だからココちゃんなんて呼ばせているんですね?
そんな風に呼ばなくても、私には肝っ玉母ちゃんには見えないけれど……。

「まさしく下町の肝っ玉母ちゃんそのものだと思うけど?」

『違いますぅ!私は洗練されたグローバルな女なの!』

智史さんはあははっと笑った。

「グローバルね。まあ、間違ってはいないけど。美和さん、ココちゃんはね、スイスに住んでるんだよ」

「え?」

『そうなのよー、今は朝の五時半!』

あ、だからこの時間でも『早起き』なんですね?
なるほど。だんだん謎が解けてきた。

「ココちゃん、研究機関に閉じこもって何やら小難しいことをやってるみたいなんだけどさ、何やってるのか教えてくれないんだ」

研究機関?お母さんも研究者なんだ?

『そういう契約だからね!ひーみーつっ!』

家族にも研究内容を言えないなんて……。お母さん、いったいどんな研究に関わっているのですか?
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