それでも君が必要だ
『あっ!そういえば智史!あの件、どうなった?』
お母さんはパンと手をあわせて大きな声を出した。
あの件?なんだろう。
「調べてもらってるよ」
『テッちゃんは頼りにならないからさ、しっかり頼むよ』
「うん。大丈夫。わかってるよ」
テッちゃん?社長さんのこと?
確か社長さんのお名前は哲郎さん、でしたよね?
お母さんがココちゃんでお父さんがテッちゃん。智史さんのご両親は楽しくて仲が良さそう。
『よし!じゃあ、智史。テッちゃんと話したいから呼んで来て』
「え?今?」
『そう!今!』
智史さんはかなり不満げに「えー」と大きな声を出した。
「せっかくこんなにベッタリできてるのに。あ……そっか!美和さんも連れて行けばいいんだ!」
『美和ちゃんは置いて行って!』
「なんでだよー」
『いいから』
「えー?」
智史さんは盛大なため息をついて、私を締め上げていた腕を名残惜しそうにそっと離した。
やっと離してもらえる、とホッとした気持ちとは裏腹に、離れた途端にヒンヤリ冷たい空気を感じて、智史さんに包まれるぬくもりが当たり前になっていた自分に驚く。
「仕方ないなー。ちょっと待っててね」
『悪いね』
「ココちゃんじゃない!美和さんに言ったの!」
そんなことを言いながら、智史さんはバタンと扉の外へ出て行った。
『美和ちゃん?』
「は、はいっ」
タブレットを振り返ると、お母さんは挑戦的にも見える鋭い瞳をしていた。
『私はね、まだあなたのこと、信じていないの』
「……」
ストレートな言葉にハッとした。
そう、ですよね?
私は会社の都合で無理やり息子さんに押し付けられた婚約者だもの。
警戒しますよね?
お母さんはとても正しい判断をしていると思う。