それでも君が必要だ
お母さんは真面目な顔で話を続けた。
『あなたのお父さんは事業譲渡を持ちかけてきて、テッちゃんの会社を助けてくれるみたいなことを言っているそうだけど、私にはそんなの信じられない。智史もそんな話は信じなかった。だから事業譲渡を断ったの。そうしたら、今度はあなたが送り込まれてきた』
「……」
『あなたがどんな人なのか、私は知らない。でも、あなたはあなたのお父さんの娘としてここにいるんでしょう?』
何も答えられない。
父に命じられて智史さんの婚約者になり今ここにいる私。
何も知らない、なんて通用するわけがない。
そもそもこの婚約が破棄されることを知っていて黙っているし。
『あなたがお父さんからどんな指示をされて送り込まれたのかはわからないけど、私なら間違いなくあなたを疑うわ』
「……そうですよね」
お母さんが言っていることはよくわかる。それにお母さんはとても正直に話してくれていると思う。
顔を上げられないまま小さくうなずき、そのまま深刻にうつむくと、お母さんは大きく息を吸った。
『それなのに!』
お母さんの口調が急に明るい雰囲気に変わったから、視線だけをチラッと上げた。
『智史ったら、あなたに初めて会った後、すぐに連絡してきて「惚れた!気に入ったから嫁にする!勘だよ!何かを感じたんだ!」なんてはしゃいじゃってさ!』
「…………え?」
予想もしなかった言葉に驚いて目を大きく開いた。
耳が詰まったみたいにぼーっとする。鼓動が激しい。
智史さん、お母さんにそんなことを言ったの!?
……どうしてそんなこと。
どうしよう。
頭が混乱する。