それでも君が必要だ

誰もいない工場は寒くてガランとしていて、智史さんの声だけが心地よく響き渡る。

最初は肌寒かったけれど、繋いだ手だけはぽかぽかと温かくて、少しずつ体全体に熱が伝わっていくのを感じた。

こんなぬくもり。
知ってしまったら、智史さんに心を預けたくなる。
信じて、頼って、しがみつきたくなる。

でも、ダメ。

温かいのはただの体温だもの。
智史さんの心が私に向いているわけじゃない。

自分を戒めようと、ぎこちなく深呼吸をしたら、智史さんは不思議そうな顔をしつつ、説明を続けてくれた。

昔から作っている溶接機は今でも主力商品で、その他に垂直多関節ロボットを作っているけれど、プログラムは納品先に合わせてオーダーメイドで作るんだよ、なんていう説明も丁寧にしてくれたりして。

うーん。
なんとなくは理解できたかな?

なにより、黒い瞳を輝かせて熱心に案内してくれる智史さんに惹き付けられて視線が離せなかった。

いつまでも見つめていたい。
やっぱり私、この人の役に立ちたい……。
そんなこと思って、またうつむいた。

工場をぐるりと歩いて入り口近くまで来ると、小さな部屋にたどり着いた。
すりガラスの窓が付いた年代物の扉をガチャリと開ける。

最初に目についたのはガラス戸の付いた書庫。中にはファイルがたくさん並んでいる。

「ここは事務所だよ。美和さんの会社よりもずっと小さいでしょ?」

「……うん」

確かに、スイ電機よりずっと小さい。席も五つしかないし。

「営業は柴田専務がメインでやってるんだ。俺も時々行くけどね。でもって、経理とかの事務は柴田専務の娘さんがやってくれてるんだよ」

なんていうか、家族ぐるみの経営なんですね。

そういうのって、やっぱりアットホームな雰囲気で和気あいあいとしているのかな?
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