それでも君が必要だ

「俺と結婚したら」

「……?」

智史さんの言葉を心の中で一度反芻したら、意味に気がつき、ハッと見上げた。

「今の会社は辞めて、うちで働いてくれないかな?スイ電機と比べたら、そりゃあ小さな会社だけどさ。結婚したらそばにいてほしい。……なんて考えるのはわがままだろうか?」

……どうしよう。

智史さん、本当に結婚するつもりでいるんですね。
仕方なく……。

それなのに、そばにいてほしい、だなんて。

嫌でも会社のためには仕方ないものね? 
智史さんは本当に覚悟を決めて私を受け入れることにしたんだ。

私を受け入れようと努力してくれているんだ……。

申し訳ないという罪悪感と、受け入れられることへの期待、最終的には父に破談にされてしまうことを知っている虚しさがごちゃごちゃに混ざり合って、胸が押し潰されるみたいに気持ちが悪くなった。

もしも本当に智史さんと結婚できるなら……。

そんな都合のいい世界が存在しないことはわかっているけれど、それでも全ての現実に目を閉ざして、あたかも結婚するつもりで小さな声で答えた。

「わがままじゃない、と思う。私……智史さんの役に立ちたい」

智史さんは目を丸くして、それから困ったように首を傾げた。

「嬉しいけど……でもね、美和さん。役に立とうなんて考えなくてもいいよ。仕事なんてついででさ、美和さんには俺のそばにいてほしい。それだけでいいんだ」

私に合わせて腰をかがめ、優しく微笑む智史さんに胸がキュンと痺れた。

そんなセリフ……。
本当みたいに言わないで。

私は無理やりあてがわれた婚約者なのに。
どうしてそんな嘘をつくの?

いったい何を考えているの?

そんなに優しい瞳をしながら、あなたは平気で嘘をつくのですね?
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