美人はツラいよ
伝票処理を終え、自分の担当の仕事に没頭していたら、いつの間にか定時を過ぎていた。
一人一人と同僚達が帰って行く中、そろそろ私も切り上げようかと、大きく腕を上げて背伸びをする。
ついついため息が漏れてしまいそうになり、自分も年を取ったなと感じる。
隣の席の美姫ちゃんは、定時きっかりに退社していった。
「お先に失礼します」と笑顔で帰って行った彼女の今日の服装は、オフィスでも浮かないシンプルな紺色のミニ丈のワンピースだったが(ちなみに我が社には制服がない)、定時前にしっかりとトイレで化粧を直してきたところを見ると、今日はデートか合コンの予定でもあるのだろう。
高級ディナーをご馳走したくらいで、会社のおっさん社員(私と三つしか変わらないけど)の田上が、小悪魔女子の本命になどなれるわけはないのだ。
やーい、ザマアミロ!
頭の中だけで昼間の鬱憤を晴らして、足取りも軽くオフィスを後にする背中を「お疲れさま」と声を掛けながら見送れば、自分が失ったのは若さだけではないのだと知る。
あの頃には当たり前にあった、目先のことに浮かれる無邪気さも、考えるより先に行動する無謀さも、恋愛中のときめきも、私はもう取り戻すことなど出来ないのかも知れない。
それらを失うと同時に、私が得たものは確かに大きい。
仕事に対する充実感、責任感、自信。
どれも、手にする前の自分には戻りたくはない。
それでも失ったものを思って、つい我慢したはずのため息が漏れた。
「よかった。萱島さん、ちょっと良いですか?」
物思いに耽っていた私に、背後から声が掛けられる。
振り向けば、すでに定時だと言うのに、皺一つない細身のスーツに上品に身を包み、自然な微笑みを浮かべながらこちらを見つめている爽やか男子が立っていた。