美人はツラいよ

その彼が、書類を手に私の様子をうかがっている。
おそらく、定時を過ぎているため、仕事の話をしてもよいか迷っているのだろう。

仕事なんだから、良いに決まってるでしょ。

私は「どうぞ、何かしら?」と軽く微笑んで、彼に続きを促した。


「このデータなんですけど、顧客を業種別だけじゃなくて、もっと詳細に分析したくて…」

彼が取り出したのは、私が毎月報告をまとめている重役会議の資料だった。
売り上げや経費の内訳について、定例的に上層部に報告しているものだ。
どうやら、彼は新しい営業戦略について明日の会議で提案するために、いつもとは違う切り口のデータを集めてその必要性を訴えたいらしい。

「うん、意図も内容も理解したけど、少し時間がかかるかな。2時間くらい待てる?」

私が言うと彼は心配そうに表情を歪めた。

「もちろん待てますが、今からで大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。終わったら連絡するから、席で仕事してて。」

私は緩みかけていた背筋をぴっと伸ばして、再び仕事に集中し始めた。

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