美人はツラいよ

「萱島さん、いいですよ。僕が出します。」
「へ?」

制された手の脇から松田君のもう一方の手が伸びて、自販機にコインを投入していく。
チャリンチャリンと音がして、やがて赤い小さなランプが沢山点る。

「どれでも、お好きなのをどうぞ。」
「あ、ありがとう。」

思いも寄らない展開と、彼の早技に驚きながらも、小さな声でお礼を言って、砂糖入りのカフェオレのボタンを押す。

「いえ、こちらこそ。面倒な仕事頼んで、残業までさせたんだから、当たり前ですよ。」
「いやいや、私の担当の仕事だから、当然のことだし。」
「今日遅くなっても大丈夫でしたか?約束とかありませんでした?」
「うん、何も無かったから大丈夫。」
「本当に助かりました。明日の会議が上手くいったら、改めてお礼しますね。」

カップの中にカフェオレが注がれる間、彼と言葉を交わす。
日々の仕事で、こんなに感謝されることも、コーヒーをご馳走になることも珍しいからか、私は自分でも驚くほど上機嫌だった。

「じゃあ、その時は自販機じゃなくて、スタバのカフェモカね。今更ながらにハマってるの。」
「なんで、またコーヒーなんですか。もっと豪華なの期待してもいいですよ。」
「え?そう?じゃあ、サイズはグランデにしてもいい?」
「いや、サイズの問題じゃなくて。」
「じゃあ、スコーン付きとか?」
「…もう、スタバから離れてください。」

おいおい、後輩にたかるなよ!と自分にツッコミを入れながらも、ついつい話が弾む。
私が調子に乗っていろいろリクエストしたからか、最後に彼は呆れたように笑った。
その顔が、たまらなくセクシーだ。
清潔感の塊のくせに、色気をチラ見せ。
とことん、松田朋紀は出来る男である。
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