美人はツラいよ
「今日は、僕、まだ仕事があるので送れませんけど。萱島さん、気をつけて帰ってくださいね。」
エレベーターの前で私を見送る彼に心配されて、思わず私は笑った。
「ははは、まだそんなに遅くないし。そもそも、いい年した大人だから大丈夫。」
笑い飛ばしたものの、本当のことを言えば少し嬉しかった。
ここ数年、残業しても帰り道の心配をされたことなどないせいかもしれない。
「ダメですよ。」
笑いながら、ナイナイと振っていた手首を突然掴まれて。
「だって、僕なら、こんな美人が目の前歩いてたら、つい襲いたくなりますもん。」
彼は、またもやセクシーさをちらりと覗かせた顔でしれっと言ってのけた。
さすがの私も、どきんと胸を高鳴らせる。
やめてよ、冗談のくせに。
そう言おうと口を開く前に、私は彼の発言に引っかかりを覚える。
ん?ちょっと待てよ。
でも、それって…
「…松田くんに送ってもらう方が、逆に危ないじゃん!」
「バレました?」
声高に叫べば、彼はセクシーさを急に引っこめて、急に冗談めかした口調で返す。
ようやく来たエレベーターの扉が開いた。
「はいはい、じゃあお疲れさま。」
私はクスクス笑いながらエレベーターへと乗り込んだ。 からかわれたと分かっても、悪い気分はしない。
なかなかデキるな、雰囲気イケメン。
「冗談じゃなく、結構本気で言ったつもりなんだけどな。」
扉が閉まる瞬間、彼が何か言ったような気がしたが、それははっきりとは聞こえなかった。