美人はツラいよ

そして、数時間後。
私は人もまばらになった定時後のオフィスで、スコーン片手に彼を待っていた。

夕方、課長から直々にしばらく松田君の仕事を手伝うよう言い渡された。
どうやら上に正式に話を通してくれたらしい。
そんなもの無くても、資料の作成などは主任に事後報告でオッケーなのだが、その律儀さは好ましかった。
確かに、これで堂々と仕事を手伝えるし、残業だって気兼ねなくできる。

逆に、そこまでしてどんな仕事を要求されるのか、少しだけ構えてしまって。
なかなか落ち着かない気持ちで、彼を待っていた。


「お待たせしました。」

ノートパソコンと書類の詰まったファイルを手に彼が経理課に入ってきたとき、私は手持ちのスコーンをちょうど全部口に入れたところで。
もぐもぐと咀嚼しながら口を開くわけにもいかずに、彼の「お疲れさまです」に、視線を合わせて片手をあげる「ちょっと待って」のジェスチャーで応えた。

「あっ、すいません。タイミング悪かったですね。」

慌てて、机の上に置いたミネラルウォーターのペットボトルを傾けて、口の中に勢いよくややぬるくなった液体を流し込む。

「うん、いや、ごめん。最後の一口だからって一気に入れすぎただけ。…ごちそうさまです。」

ようやく飲み込んでから、口に出した言葉は子供の言い訳みたいで、我ながら情けなかった。

「ふっ、どういたしまして。」

ふわりと笑った彼の顔に思わず胸が高鳴った。
いかんいかん、慣れないイケメンに完全にペースを乱されている。
私は、不自然なくらい急に彼から視線を外して咳払いをしてから、彼に向き合った。
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