美人はツラいよ
自販機で買った缶のコーヒーを手に席に戻れば、データをチェックし終えた松田君がぐぐっと大きく背伸びをしたところだった。
その大胆で無防備な仕草が、私の心をほっこりさせた。
いくら仕事が出来るイケメンエリートでも、素顔は25歳のイマドキの男の子だ。
問題は、そのどこか間抜けな場面でも、私の胸が思わず高鳴ってしまったことだ。
少し疲れた顔で首をコキコキ鳴らす姿も、かわいく見える。
ギャップ萌えとか、ホント勘弁願いたいものだ。
「はい、お疲れさま。」
「ありがとうございます。」
「熱いから気をつけてね。」
「はは、気をつけます。」
あわてて平常心を取り戻した私からコーヒーを受け取った彼は、いつもの雰囲気イケメンへと戻ったようだった。
「今日はこのくらいにしましょうか。もうこんな時間ですし。」
「まだ、大丈夫だよ。」
時計を見れば、9時を少し過ぎたところだった。
まだ電車もあるし、決算期前後は経理課でもこれより遅くなることなんてザラだ。
しかし、彼は私の申し出に首を振る。
「いえ、とりあえず明日報告する分までは出来ましたから。一度これで方向性を再確認したいので。今日はもう帰る準備をしてください。送ります。」
流れるように説明をしてから、最後には爽やかに微笑んだ。
その笑顔にドキッとした瞬間、つい昨日の帰りに言われた言葉が脳裏をよぎった。
『僕なら、こんな美人が目の前歩いてたら、つい襲いたくなります。』
軽い冗談としか思えない発言なのに、思い出したら急に顔が熱くなった。
昨日は軽く受け流せた言葉を、今日はこんなにも意識してしまう。
今日一日で、松田君の意外な行動や姿に、何度もドキドキさせられたせいだ。
あわてて平常心を取り戻そうと、そそくさと帰りの準備を始めると、くくっと笑い声をかみ殺すような声が聞こえてきた。
見れば、彼が可笑しそうに笑うのを堪えていた。