美人はツラいよ
密かに心臓バクバクの私とは違って、松田君は落ち着いた様子で、料理とワインを楽しんでいた。
やはり、元々の育ちがよいのか、マナーは完璧だ。
当たり障りのない話をしながら、上品ぶって食べたフレンチは、それでも大層美味しかったけれど。
私は、松田君がどうして私にアプローチしてくるのか、ずっと引っかかっていた。
今までに仕事で、彼との接点はない。
『あなたに近づくチャンスをずっと狙ってた』
前に彼から突然告げられた意味深な発言を思い出すが、私には全くそんなことを言われる心当たりはなかった。
だとすると、たまたま見かけて私の見た目に惹かれたというだけだろうか。
それならば、身に覚えもないのにも頷けるが、随分と手の込んだナンパだなと思う。
デザートまで全て食べ終わると、彼はいつもの爽やかな笑顔で言った。
「帰りましょうか。家まで送ります。」
完全な仕事モードで告げられた、その言葉に、私の疑問メーターは振り切れた。
一体、この子は何がしたいんだろう。
これじゃあ、普通に食事をしただけじゃん。
…いや、普通に食事するだけでいいんだけど。
やっぱり、今日は単に仕事を手伝ってもらってお礼というだけで、他に意味なんてなかったのか。
いやいや、仕事のお礼にしては予約至難の高級フレンチなんて、明らかにやり過ぎだし。
でもでも、彼は実はすごいお坊ちゃまで、世間とすごい感覚がズレてるだけとか?
まって、私はともかく、あの元・恋愛マスターの由紀恵が言い切ったということは、その気アリで間違いないのか?
あーーーーー、もう分からない。