美人はツラいよ

彼は眉間に小さな皺を寄せながら、話を続けた。

「僕、いつも自分を作ってるんです。子供の頃、両親の仕事の都合で親類に預けられてる時があって。その頃から、ずっと自分が相手にどう見られてるかを意識して生きてきたんです。」

由紀恵が、彼のことを“雰囲気イケメン”だと評した時のことを思い出す。
彼はやはり、自分を良く見せる方法を知ってるタイプの人間らしい。

「その顔は、もう萱島さんにはバレてるかもしれないですけど。僕は特別顔が整ってる訳でもないし、素顔では滅多に笑いません。口も悪いし、本当は人見知りで、性格もズボラな方です。全部、会社では完璧に隠してますけどね。」

普段の彼だけを見れば、とても信じられないが、今なら何となく分かる。
仕事をしているときの彼は無口でずっと真剣な表情をしているし、今も私とはほとんど目を合わさず、ゆっくり言葉を選んで迷いながら話している。

「だから、あなたの存在は僕の目にとても新鮮に映った。ホント、とびきり美人なのに、あんなに髪を振り乱して仕事してる人、初めて見た。」

松田君は何かを思い出したみたいに、ふっ、っと可笑しそうに息を吐いた。

「木村さんに嫌がられてるのも気にしないし、避けられてるのも気づかないし。こんな人も居るのかと、衝撃を受けました。」
「ああ、やっぱり避けられてた?」
「ええ、思いっきり。」

何となくは気が付いていたものの、直接「来ないでくれ」と言われた訳ではないので、厚かましいのは重々承知で、色々と教えてもらっていた。
迷惑だったなら、ちゃんと謝らねば。
木村さんだけでなく、社内中をお詫び行脚をした方がいいかもしれない。
私が頭の中で反省している間も、松田君の話は続く。

「それからです。僕は社内で自然と萱島さんをいつも探すようになった。経理に用事があるときはもちろん、社員食堂でもあなたが見える席によく座ってました。」
「えっ、うそ。」
「本当です。嘘だと思うなら聞いてみて下さい。いつも一緒にランチをしてる赤松さんに。」
「由紀恵に?」
「ええ、萱島とは一向に目が合わないのに、彼女とは何度か目が合いました。」

なるほど、由紀恵がいつかのランチの時に唐突に彼の話題を持ち出したのは、こういう訳だったのか、と一人納得する。

< 43 / 79 >

この作品をシェア

pagetop