美人はツラいよ
女三人でわいわいと話しているところへ、再びノックの音が響きわたる。
返事をすれば、控えめに開いた扉の間から、いつも以上に爽やかさをまとって、すました顔の彼が入ってくる。
「千景さん、ちゃんと化けた?」
悪びれることなく、ははっと明るく笑う男は、今日のもう一人の主役。
「ちょっと、本番までお楽しみって約束したじゃない。」
いつも通りの口の悪さはスルーして、約束が守られなかったことに抗議しつつも、彼の登場が嬉しいと思ってしまう私は、相当この“王子様”に心を持って行かれているのだろう。
「あっ、松田君も、かっこいい。」
涼子が彼を褒めると、花梨ちゃんもきゃっきゃと嬉しそうに笑った。
王子様の登場に小さなレディも興奮気味だ。
彼は私の姿をしげしげと見つめて、小さくため息をついた。
「ちょっと、やばいかも。千景さんが想像以上に盛られ過ぎてて、顔がどうしてもニヤケる。」
「こんな時くらい、素直にキレイだって言いなさいよ、アンタも。」
由紀恵が彼の背中をバシンと叩く。
彼の本性は、この二人にはすっかりバレている。
「本当に良かったね。千景ちゃんの良さをちゃんと分かってくれる人が現れて。わたし、色々言ったけど、ホントは心配で…」
オイオイ、君は私の母親か!と、思わずツッコミを入れてしまいそうな程、涼子は感慨深げだ。
実際に、結婚が決まったとき、誰よりも分かりやすく喜んでくれたのは、涼子だった。
「気の迷いで手を出されただけじゃなくて、よかったわ。」
由紀恵が涼しい顔をして、言い放つ。
私たちが付き合い始めてからも、しばらくは彼の本気を疑っていた彼女。
言葉からは分かりにくいけれど、見つめる視線はとびきり優しい。