焦れ甘な恋が始まりました
突然手に持っていた企画書を握り潰した狩野くんは、どこか吹っ切れたような笑顔を見せて社長に目を向けた。
その目は、決意に満ち溢れていて。
強い、意志が宿っていて思わず目を奪われる。
「すみません、社長。……もう一度。一から考え直します。VENUSの、根本的なコンセプトは置いたまま、そこからVENUSだからこそできるサービスを考えます」
「……プレスの配布時期を考えると、2週間ないぞ」
「はい。でも、今ならすごく良い企画を考えられる気がしてるんです。今度こそ、社長を良い意味で唸らせるものをお持ちします」
「……期待してるよ」
「期待しててください。それじゃあ、失礼します」
……と。
それだけ言うと、弾丸のように社長室を出て行った狩野くんの背中を、私は呆気に取られたまま見つめることしかできずにいた。