焦れ甘な恋が始まりました
言いながら、困ったように笑う社長を見て、私はただ首を捻るばかりで。
社長は改めて、とても優雅な手付きで湯呑みを取ると、もう一口お茶を口に含んでから再び小さく息を吐いた。
「でも……本当に、今回は日下部さんに助けられてばかりだったな」
「……え、」
「オープン企画の件もそうだし、挨拶状を送付することも……クライアントレシピがなければ……日下部さんがいなければ、思い付かないことだった」
湯呑みを両手で包み込むようにして持ちながら、柔らかな笑みを浮かべる社長。
そんな社長の表情と言葉に、思わず胸が熱くなる。
「日下部さんがいてくれたお陰で、VENUSを最高の形で世に送り出すことが出来た」
「そんなこと……あれは最終的には、皆さんが手伝ってくれたから出来たことで、私は結局何も……」
「……もちろん、狩野を含めた社員全員の力だ。
だけど、その中でもVENUSが無事にオープンを迎えられたのは、日下部さんがいてくれたからだ……って。そう思ってる人は少なくないよ。
日下部さんがウチの社員で良かった。日下部さんがいてくれて、本当に助かった」
「っ、」
「ありがとう、日下部さん」
柔らかに目を細め、愛おしいものを包み込むような声色でそんなことを言う社長を前に……鼻の奥がツンと痛んで、思わず涙が零れそうになった。