焦れ甘な恋が始まりました
もう完全に、理不尽な八つ当たりとしか言えない仕打ちに、半共犯者である私は苦笑いしかない。
そんな私の隣で、ゆっくりと腰を上げた社長は、ギシリとソファーが唸ったのと、ほぼ同時。
私にしか聞こえないような声で、そっと小さな “ 業務命令 ” を落として席を立つ。
「…………仕事が終わる、20時に、VENUSの裏口で」
「っ、」
「迎えに行くから、今度は誰にも邪魔されないように待ってて」
緩やかに、上げられた口角と。
誘うように向けられた流し目に、返事を返す間もなく社長はスーツのジャケットを手に取ると、颯爽と事務所をあとにした。
「日下部さーん。なんで社長、怒ってたんですかぁ!?」
「わ、わかんない…………」
いつだって唐突な社長の後ろ姿の残像を追い掛けながら、呆然と零した言葉は本心だったけど。
しばらくして冷静になった頃、ふと狩野くんを見てみれば、今度は狩野くんが “ 考える人 ” になっていて、なんだか少し悪いことをしてしまった気分になった。