焦れ甘な恋が始まりました
✽ ✽ ✽
「……乗って」
約束の、20時ちょうど。
人気のない裏口で、言われた通りに誰にも見つからないように身を潜めていれば、見覚えのある車が目の前に滑り込んできた。
開いた窓から見えた顔に、言われるがまま助手席へと乗り込めば、大好きなシトラスの香りに身体ごと包まれる。
「……社長、車、」
「元々、VENUSがオープンしたら解禁の約束だったから。今日から早速、解禁された」
その子供みたいな言い分に、思わずクスリと笑みが溢れた私を確認してから、社長はアクセルを踏み込んだ。
……久しぶりの下條社長の愛車はなんだか、酷く居心地が良くて。
たったそれだけで、疲れも何もかもが吹き飛んでしまったような気さえして、現金な自分に苦笑いが溢れる。
「っていうか、日下部さんも疲れてるはずなのに、急に予定を押し込んだりして、ごめん。……少し、話したいことがあったんだ」
「話したいこと、ですか?」
「うん。とりあえず目的地に着いたら、ゆっくり話すよ」