好きの代わりにサヨナラを《完》
「誰かに愛されたいだけなら、男に逃げてもいいんじゃない?」

あたしは目を伏せて、唇を噛みしめる。

今度は音を立てずに、そっと指先で鍵盤に触れた。



「だったら、俺にする……?」

恭平がうつむくあたしをのぞきこむ。

上半身をかがませた彼のポケットから、キラキラ光る銀色のものが滑り落ちた。

防音用のじゅうたんが敷かれた床に落ちたものに視線を向ける。



銀色のネックレスだった。

このデザイン、どこかで見たことがある。

シルバーのチェーンに、指輪のようにも見えるリングがつけられていた。

それを拾おうと手を伸ばした時、ふと思い出した。

これは、莉緒が制服の下に隠すようにいつも着けているのと同じデザインだ。



「それに触るんじゃねぇ」

恭平の冷たい声に、あたしは伸ばした手を引っ込めた。
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