キスは目覚めの5秒後に

「よし、行くぞ。先ずは警察。大使館は明日。病院は警察の後だな」


テキパキと告げられて、ひょいと荷物を担ぐように片腕で抱えられた。


「へ?」


急な浮遊感に焦っていると、彼はそのままスタスタと歩きだした。


「歩けますから、下ろしてください」

「急いだ方がいいんだ。恥ずかしいだろうが我慢しろ」

「でも。子供じゃないんですから」

「言うことを聞け!」


一喝されて身が縮まり、それ以上何も言うことができなくなった。

タクシーに乗って警察まで行って届け出て、保険の手続きに必要な盗難証明書を発行してもらった。

そのあと病院に行って脚の治療をしてもらうと、時間はもう11時近くになっていた。

その間ずっと彼は一緒にいてくれて、全てのお金を払ってくれた。

もうどう感謝してもしきれないくらいだ。


「すみません。ありがとうございました。おかげで助かりました。お借りしたお金は必ずお返しします」


ホテルに向かう車の中でお礼を言うと、彼は、これからどうするんだ?と訊いてきた。


「明日即日発行してくれるクレジットを探してみます。できるかどうかは分かりませんけど・・・」


スウェーデンに口座が無くても現地発行できるのか分からない。

不安はたくさんあるけれど、いざとなれば留学中に知り合ったスウェーデン人を訪ねてお金を借りようと思う。

そう話すと、彼はうーんと唸った。


「そうだな。それもいい方法だけど、不確かで危険だ。それよりも、俺にいいアイデアがあるぞ」

「え?どんなことですか?」

「あんたさえよければ、なんだが・・・俺と契約しないか?」

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