キスは目覚めの5秒後に


そして、夜。

マンションのダイニングには、帰りがけに購入したオードブルが並べられた。

北欧お馴染みのオープンサンドにして、橘さんはワインと一緒に、私はミネラルウォーターをお供に楽しむ。


「いただきます」

「おう、食え。それで、大使館は何て言っていた?」

「緊急の渡航書を発行してもらうには、日本国籍だっていう証明がいるんです。私の場合免許証も保険証も日本においてきたから、免許証のコピーか戸籍謄本を送ってもらうのが一番良いみたいです。それでここの住所を教えてほしいんですけど、わかりますか?」

「ああ待ってろ。今書いてやる」


さっと立ち上がった橘さんに、食事のあとでいいですと言うと、あとにすると忘れるからと名刺を持ってきて裏にペンを走らせ始めた。


「パスポートの再発行はしてもらえないのか?」

「申請してから一週間かかるそうで、帰りに間に合わないかもしれないから日本で再発行します」

「ん?あんた、帰国するつもりなのか?」

「何言ってるんですか、当然です!日本での生活がありますから。それに、あんたじゃないです。竹下美也子です」


スウェーデンは大好きだけど、このままここに居るなんて冗談ではない。

それに、ずーっと橘さんにお世話になるなんて、そんなわけにはいかないじゃないか。

唇を尖らせて睨むと、橘さんは住所を書く手を止め、ふうんと鼻を鳴らして私を見た。

少し首を傾げて見つめてくる目がすぅっと細くなる。

それが男のくせに妙に色っぽいのは、やっぱり歌舞伎役者顔だからか。


「じゃあ竹下美也子。俺が、帰るなって言ったらどうする?」

「は?」

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