キスは目覚めの5秒後に

「はい、そうですよ、笑ってください。傷心に来たのに傷を増やしたんですから」


久しぶりに元彼を思い出して気分が沈む。

そうだ、今の私はこれ以上ないってくらいに傷だらけだった。


「バカか。笑わねえよ」


テーブルの上にあった手が動いて目の前にきたと思ったら、額をそっと押さえられて彼の方に引き寄せられた。

私の髪に彼の息がかかる。

なんだろう、すごーくあたたかい。


「橘さんこそ、どうなんですか。恋人は、いるんですか」

「俺は、仕事が忙しくてこの3年くらいは女なしだ。今は、そう・・・世話の焼ける手負いの猫で手一杯だな」

「手負いの、猫?」


それって私のこと?

手一杯って、どういう意味?

それとも全然別の人のこと?


頭の中を疑問符で埋めていると、顎に手が添えられて上を向かされた。


「・・・そそる顔だ。抱いて欲しいのか?」


艶を含んだ瞳に見つめられ、囁くように言われて胸が震える。

けど・・・。

顎に添えられた手を退けて顔を背けた。

また、からかわれているのだ。


「だ・・・何言ってるんですか、先の約束の出来ない女は抱かないんでしょ。冗談言わないでください」

「・・・そうだな。冗談だ」


橘さんはさっと離れて、玄米茶をくいっと飲み干したあとごちそうさまと言って自室に行った。

私は、シーンと静まるダイニングで、トクトクと脈打つ胸が静まるまで動くことができなかった。

反則的に色気がありすぎる。

こんな男、初めてだ・・・。

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