キスは目覚めの5秒後に

「ただいま。いい匂いがするな」

「お料理作って待っていたんです。すぐに用意しますから、待っていてください」


ほかほかと湯気のあがる料理を前に、二人で乾杯をした。

キャンドルの灯りに照らされた彼の顔が、いつもの数倍増しで魅惑的に見える。

ゆらゆら揺れる小さな炎が瞳に映っていて、ほどよい愁いを帯びている。

これもキャンドルマジックの一つだろうか。

それとも、私の気持ちが、そう見させるのだろうか。


「橘さん、ありがとうございました。無事、渡航書を発行していただけました」

「良かったな。帰国まで、もうすぐか・・・ところで、例の件は考えてくれたか」

「はい。今日一日ずっと考えていました。答えは、ノーです。私、やっぱり雑貨に関わる仕事がしたいんです。帰国が現実味を帯びた途端に、今までよりはっきりと街の風景が目に映ったんです。インスピレーションがどんどんわいて、気づけば雑貨のデザインメモをとっていました」


大使館に行ったあと北方博物館に行って、ストックホルムの街をゆっくり歩いた。

色鮮やかな紅葉と青い空が豊かな水面にそのままうつってて、これをタペストリーにしたら素敵、ランチョンマットにもいいかも!って思う自分がいた。


「今の仕事から離れたくないなって思います。雑貨が、好きなんです」


気持ちを伝え終わると、橘さんはふぅっと息を吐いて肩を落とした。


「そうか、わかった。残念だよ。あんたが欲しかったな」

「私に声をかけてくれて、本当にありがとうございます。認めてもらえて嬉しかったです」

「じゃ、帰国するまでだな。あと少ししかないが、宜しく」

「はい、お願いします」


乾杯しなおして、今日街で見たあれこれを話しながら楽しく食事をした。

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