キスは目覚めの5秒後に
「奈帆も彼のファン?」
「うん。彼ね、劇団に所属してるんだって」
「訊いたの?」
「そう。あまりにもいい声してるから訊いてみたの。まだ端役らしいんだけど、今度舞台に立つそうよ。私応援してるんだ」
見に来てくださいって言われて、チケットも買ったそうだ。
美也子も行く?と言われて渡されたチケットを見ると、結構有名なタレントが出る舞台のものだった。
「すごいじゃない」
「でしょ?」
まだ無名だけど将来はTVや映画で活躍するかもしれない。
そんな夢を二人で語って盛り上がって、2時間くらいで居酒屋を出た。
久々日本語で思いっ切り喋って、お酒も入ってとてもいい気分だ。
二人で駅まで歩く道で、奈帆が私に言った。
「でも美也子、私思うんだけどさ。一度試してみたって良かったのに。スウェーデンで出会ったその男、日常でも極上よ、きっと」
「そうだね」
奈帆の言うとおりだと思う。
イジワルでずるくて時々甘い、あんな男、他にはいない。
けど、彼は私のことを好きだから抱いたのか、そうでなくただ欲情したから抱いたのか、そこがわからなかったのだ。
もう26歳なのだ、一方通行で空回りする恋はしたくない。
お互いに、非日常で見た夢として終わらせるのが一番いいのだ。
もう吹く風が冷たい。
あと二ヶ月もすればクリスマスがくる。
あのときサンタさんにお願いしたプレゼントは、ちゃんと私の元に届くのかな。